* Tobey's Worldwide Web. *
Glamour June 2002


『スパイダーマン』の主役を務めることになったおかげで、みんなのお気に入りだった隣の家の男の子は、まさに筋骨たくましく、危険なほどセクシーに成長した。トビー・マグワイアが女性について、レオナルド・ディカプリオとの付き合いについて、また・・蜘蛛への怖れについて、エマ・フォレストに語る。

 うぬぼれ勝ちで鼻持ちならない連中がのさばる世界にあっても、ひとり繊細なアウトサイダーでいるトビー・マグワイアに、女性達は恋している。『サイダー・ハウス・ルール』、『プレザントヴィル』、『ワンダー・ボーイズ』、出演したどの作品でも、彼は道徳を司る中心、親しみやすさとこの世ならぬ雰囲気というものをあわせ持つ、大きく見開いた瞳をした観察者、といった風情だ。彼は、バスケットには誘われないようなタイプ、男性アイドル達の中でも、どんな位置を与えようと扱いやすい気楽な交替要員、という印象だったのだ。その彼が、レオナルド・ディカプリオの遊び仲間、ひどい命名だが「売春婦取り締まり斑」というグループの一員だと想像するのは難しい。そう、彼はディカプリオと同じく、青春時代をコマーシャルや連続ドラマのオーディションに費やしていた。しかし、この繊細な変わり者は実際、ロサンジェルスのナイトクラブ、「ムーンバ」でジェニファー・ラブ・ヒューイットに会ったとたん、彼女をダンスフロアに連れ出したらしいのだが、タブロイド紙がそのことを書き立てると、”なんだい、彼女とは前から親しい仲だったんだよ!”と不平を唱えたのだった。

  彼はまた、今月号のカバーモデル、この夏の見逃せない映画『スパイダーマン』で共演しているキルスティン・ダンストとの仲も多いに噂されている。オスカー・パーティーのゴシップ話によれば彼は、キルスティンを振って『アメリ』の主演女優オドレイ・トゥトゥを追いかけ、その夜をつぶしたということだ。しかし、トビーが言うところでは、
 ”僕はキルスティンと付き合ってなんかないよ。なんでみんながそんなことを言うのか、ワケがわからないね”
ということだし、キルスティンの方も、自分達はずっと「いい友達というだけ」と断言している。しかしながら、『スパイダーマン』の監督サム・ライミはこう語る。
 ”二人が撮影に入ってすぐ思ったね、「おやおや、こりゃ二人の間には何かあるな」ってね。”

 私が彼に会った日、物静かな寂しがり屋、というマグワイアのイメージは、音を立てて崩れ去った。彼は色の濃いサングラスをかけ、昼食をとるために選んだヒップなカフェに、にぎやかな声をあげつつ、仲間にハイタッチしながら入って来た。
”僕はスポーツ好きでね”彼は強調する。
”ほんとのところ、すごく社交的なんだよ。映画で演じて来たたくさんのキャラクターは、自分を表わしているわけじゃない。僕は、生きてる間に、できることなら何回だって人を驚かせたいんだ。これから先を楽しみにしてるよ、だって僕に対する人の思い込みっていうのを壊して行くんだからね。これが打ち明けたい、僕の最大の秘密なんだ。”

 マグワイアは5フィート8インチ、かん高い声で、肌が青白い。彼はまるでジャレッド・レトとスティーヴ・ブシェミの間に生まれた子供のようだ。クールなのにヤボったくもある。しかし、その最も人目を引く容貌、熱を帯びてじっと見つめる青い瞳は、わたしたちがまさにこれから目にすることとなるスーパーヒーローのもので、その瞳のおかげで、マスクをしたヒーローを彼は完璧に演じている。コロンビア・ピクチャーは、『スパイダーマン』に一億ドルの予算を投入して映画化したのだが、この必ず儲かる商品を作る一流企業は、ライミがトビーを主役にキャスティングすると強く要求したとき心底驚いた。彼らはトビーに、スパイダーマンの分身、変わり者のティーンエイジャー、ピーター・パーカーを認めたものの、アクション・スターとしての彼には難色を示したのだ。コロンビア・ピクチャー側が納得するまで、彼は2度もオーディションを受けなければならなかった。彼ほどの実力のある役者なら、普通はありえないことだが。

 ”オーディションを2回やらないと役をもらえないっていう事実を、仕方なく受け入れたよ、自分の中ではちょっと葛藤があったけどね。でも、サムは僕の味方だったし。他の点で気にすることなんて無かったね。”
難解な独立系の映画から、<(ファストフードの)ハッピーセット>とアクションシーンが抱き合わせになったような大作映画へ主演するということは、奇妙なことのように思える。しかしマグワイアにとって、その選択は意識的なものだった。

 ”僕はオーディションの準備が出来てたよ。サムが僕に身体を作れるかどうか聞いた時言ったんだ、「そんなことは、僕らの一番ちっぽけな心配だね。チャンスをくれたら、やってみせるよ」ってさ”

 ”身体にぴったりしたライクラ・スーツでやって見せたの?それだと力が出せなかったんじゃない?”

 ”そうでもないさ。スクリーンテストでコロンビア・ピクチャーは、サイダーハウスの物憂げなコドモが、信用に値するアクションが出来るかどうかってのを見たがってたんだ。僕はその時ほんとにうまく身体を作り上げてて、その青い、つなぎになってるスーツを着たよ。そういうスーツを身に付けなくちゃいけない、最初の時だったんだ。”
どうやら彼は、どんなに見事に身体を作り上げたか証明するために、スーツを引っぱり降ろしたようだった。

 証明は出来ただろうが、続く四ヶ月半あまりも、彼は1週間に6日のトレーニングをこなすことになった。通常行っていたヨガに加え、ウエイトリフティングと筋トレを行い、敏捷に壁を這い登ることが出来るぐらい充分に鍛練を積んだ。トビーが打ち勝たなければいけなかった障害は、蜘蛛恐怖症という、ちょっとした問題だった。ピーター・パーカーは学校の見学で遺伝的に部分操作された蜘蛛に噛み付かれ、すぐに奇妙な力を発見することになる。強さと、空想的、超能力者的ともいえる感覚を伴う蜘蛛の敏捷さを。しかしながらトビー・マグワイアは、ことさら蜘蛛に熱心とは言えない。

 ”蜘蛛を見ると、ぞっとしてちょっと変になるよ。だけどこんなふうに考ることにしたんだ、トム・クルーズ、ハリソン・フォード、アーノルド・シュワルツェネガー、−−そういうタフ・ガイだれでもいいんだけど−−彼らを連れて来て部屋に蜘蛛と一緒に閉じ込めたら、そのうちの一人ぐらいはテーブルに飛び上がったりするんじゃないかな、ってね。”

 『スパイダーマン』に出演を望む前に、彼は映画の仕事をしばらく休もうと決めた。『ワンダー・ボーイズ』で彼は素晴らしい演技をしたが、公開されると仕事に興味が無くなってしまい、休みを取る必要を感じていた。半年のち、彼は再び仕事を捜し始めた。

 ”僕はいくらか深く椅子に腰掛けて、一番自分に見合った仕事を待ってたんだ、とは言っても、積極的に見つけようとはしてたよ。”この時、よく考えてから彼は付け加えた、
”でもやっぱり、じっくり腰を据えながら、ってことだけどね。”落ち着かなそうな声が響く。
わたしは彼に、最終的に相談出来るような相手がだれかいるのか尋ねた。彼はマイケル・ケインからマイケル・ダグラスに至るまで、様々な俳優と仕事をしている。
”どうかな、つまり、友達はいるけど、大きな意味でだれかの名前を挙げるっていうのは難しいね。”

 マグワイアの野心と不安定さの背後にある大きな要因は、彼の育って来た環境にある。彼は1975年6月27日、サンタモニカで生まれた。母親は妊娠したとき18歳だった。彼の父親はすぐに彼女の元を去ったのだが、20歳だった。母親がなんとかして家族と暮らそうとしたので、マグワイアは、オレゴン、ワシントン、カリフォルニアのそれぞれを、親戚たちの間を、往復しながら成長した。

 彼が子どもだった時、あまりにも学校が変るので、新しく友人を作らなければいけないというプレッシャーのせいで、朝起きると具合が悪かった。彼がそれを乗り越えるやり方は、目を見開き、口を閉じておくことだった。女優になりたかった彼の母親は、彼に賄賂を握らせると、12歳から演技の授業を受けさせた。彼は1990年には学校を去り、オーディションまわりを始めた。

 ”僕はずっと野心を抱いてたよ。ものすごい貧乏の中で育ったからね。もう貧乏はまっぴらなんだ。母は、今の僕が車にひと月にかける金より安い車に乗ってたよ。ぼくらが出かけるといつも車が動かなくなった。13歳で、道路わきまで車を押して、友達に助けてもらうために公衆電話のところまで歩かなきゃならない。自動車協会を呼ぶわけにはいかないからね。別に、最高の車が欲しいわけじゃなかったさ、動かなくなったりする車じゃなきゃ、なんだってよかったんだ。”

 大人になった時、彼にはある程度の金があり、自分の遊び仲間がいて−−レオナルドや、デヴィッド・ブレーンやその仲間だが−−事態は違っていた。終わることのないパーティー、レッド・カーペット、最高に美しい女性達からチヤホヤされること。わたしは彼に「売春婦取り締まり斑」について尋ねたかったのだが、彼の前で<売春婦>という言葉を使いたくはなかった。
”あなたは、それが自分のイメージを傷付ける思うかしら、ええと、その、ほら、あなたが「パーティー取り締まり斑」の一員だ、ってことなんだけど。”

 ”「<パーティー>取り締まり斑」だって?”彼は笑っている。
”言いたいこと、わかるでしょうけど”
”何のことなのか言ってよ。ほら、どうぞ。言ってってば。僕がわかってるっていう、その言葉を言ってごらんよ。”
”知ってるくせに。”
”いや、知らないね。その言葉を聞きたいよ。”
”わかってるんでしょ、トビーったら。『プレザントヴィル』を見た人なら、あなたのこと、いいヤツだって思うわよね。だけどあなたって、ほんとは悪ガキなんだわ。”

 彼は大爆笑し、その大笑いの発作で身体をのけぞらせた。ピーナッツ・バター・サンドウィッチを喉に詰まらせないよう努力しながら。
”私がどうしてあなたのこと知ってるかわかる?”
”聞きたいね。”平静を取り戻そうとして彼は言う。
”1年ほど前の事になるわね、ウエスト・ハリウッドのジム、<クランチ>の外で、あなた、女の子をナンパしようと声かけてたでしょ。”
その時、わたしは、こんなのトビー・マグワイアじゃない、と思ったのだが、それはまさに彼のようだった。

 ”見てたの?僕だってさ、精力旺盛な男なんだからね!”早口でまくしたてる。私にその現場を見られた事を、心からおもしろがっているようなのだ。
”でもあなたが出てる映画を見たら、とってもいい青年だ、って人は思うはずよ。”
”そうだろうさ、だけどいつだって、女の子達からこんな言葉を聞くはずだよ、「彼はとってもいい人ね、でもあたしには退屈だわ」ってね。”

 私は、女の子にそんなことを言われたことがあるのかどうか聞いてみると、彼は憂鬱そうになった。

 ”僕は自分のプライベートについて話す気はないよ。”彼は言う。
そうだろうが、もう、彼は気付いているはずだ、名声と、それに伴う人々の詮索が渦巻く完全に別の領域へ、『スパイダーマン』が自分を追いやって行くだろうということを。『スパイダーマン』は今年で最も人気のある作品になるだろうが、しかしまた、それが持つ侵し難い聖像のため、そこから逃げ出すのが容易ではないということを。
”いいかい、僕は僕っていうだけさ、トビー、独身の男で、一人の人間だ。僕がだれと付き合おうが、他人の知ったことじゃないね。ああまったく、これじゃまるでどこかのオフィスのよくある井戸端会議みたいじゃないか。”

 と、突然彼は噂好きが話す時のような、かん高い声を出し、二人の秘書の交わす会話を演じ始めた。
”ねえ、聞いた?ジャネットったら、ボーイと付き合ってるんですって!””まさか、あり得ないわよ!ほんとなの?”

 彼は、跳ね回り、身ぶり手ぶりを交えて演じていた。そしてこれこそ、まさに彼だった。この変わり者の彼、ここに来て私は初めて恋に落ちた。青く澄んだ瞳、色の濃いサングラス、作り上げた肉体、男っぽく振る舞う態度、女性との駆け引き。そういったものの後ろに押し込められてはいるが、その時が来れば、彼本来の姿が確実に現れる。それはスクリーンであなたが目にするそのもの、それこそが、私達をこんなにもひどく惹き付けてやまない彼の正体なのだ。


By Emma Forest